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黒い鎮魂/ブラック・レクイエム 第28回
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殺されたアフリカの指導者たちの死の背後に、何か目に見えない共通の力が動いていたのではないか、というのが『黒い鎮魂』のテーマである。その共通のある力の存在を「一本の鎖」という表現を使って表し、6人がその同じある力によって殺されたことを、「鎖に繋がれた」という言葉で表している。見えないある力というのは、しかし、ルムンバの場合、ハッキリとしている。それは、ベルギー、アメリカをはじめとした西側国家(東西冷戦時代、こうした呼び方が一般的だった)、旧植民地勢力、巨大産業資本であり、かれらが新しく、過激で、純粋なアフリカのリーダー(パトリス・ルムンバ)から特に守ろうとしたのは鉱物資源に関係した巨大な利権である。それだけ”共産主義者”ルムンバの登場は危険で、彼らの既得権益を脅かすものだったのだ。
だがここで、はじめにも出てきた、では何故、ほとんど資源を持たない弱小国、ルワンダの大統領――ハビヤリマナが、そうした見えないある力によって殺され、しかも一本の鎖に繋がれなければならないのかと。そこにはあるプロット、あるいはシナリオが存在するのではと書いたが、しかしこれを全体として読み解くのは簡単ではない。何故なら、大統領機撃墜=暗殺と、いわゆるルワンダ虐殺というものが、重なり合い、複雑に結びついていて撃墜暗殺はどうしても虐殺との関連の中でしか語られないからだ。どうしても焦点は”ルワンダ虐殺”の歴史的背景、事実経過、何故、被害等々の方ばかりに当たり、ハビヤリマナ暗殺も、その中の一部分としてしか捉えられない。しかしそれは、ルワンダ虐殺を限りなくルワンダ国内の問題として封じ込めてしまうことではないだろうか。はたして、そうか、ルワンダ国内政治の矛盾、ツチ・フツ対立、権力内闘争、過激派(インテラハムウェなど)の台頭、ツチ族、フツ族穏健派の殺戮・・・、それだけが”ルワンダ虐殺”のすべてなのか。ならば、ハビヤリマナの撃墜暗殺は、そうした国内政治の矛盾の頂点に過ぎないのであって、ルムンバのように背後に国際的見えない力が動いている訳でもなく、なにも”一本の鎖”に繋がれる理由はないのではないかということになる。ホントにそれだけなのか?
だが、こう考えてみてはどうだろう、つまり、ハビヤリマナの撃墜=暗殺が引き起こしたのは、あるいは真の狙いは虐殺ではなく、200万を越す難民脱出、フツ族追放の方ではないのか、こっちの方に実は、「ルワンダ事件(虐殺+難民脱出)」の本質であり、背後にいる者たち(見えない力)の真の狙いがあったのだと。200万を越すフツ族難民は何処へ逃げ、何をしたのか、かれらは東ザイールに逃げた(内80万人はタンザニア)、そこで数十万単位の難民キャンプをいくつも作った。その場所はどういうところだったのか、その地下には、無尽蔵の貴重な鉱物資源が眠っている。無尽蔵の地下資源が眠る他人(ザイール人)の大地の上に120万を越す難民キャンプを作ったらどうなるのか、尋常ではない混乱が起きることは想像に難くない、ここにルワンダ虐殺を読み解く鍵、あるいはシナリオの書き手たち(=見えない力)の意図が隠されているように思われる。
では何故、かれらフツ族はルワンダを捨て、ザイールに押し寄せてきたのか?虐殺を実行したからだ。そして、何よりも”恐怖心”だ、80万のツチ族を殺したフツ族に対して隣国ウガンダから進撃してきたツチ族の軍隊(RPF/ルワンダ愛国戦線)が復讐、報復の殺戮をするのではないか、という強烈な怖れである。内戦の開始と同時に恐怖とパニックに突き動かされた大量のフツ族が一気に脱出、難民と化したのだ。だが話は簡単ではない、もう一つワケ(理由)があるという。それは、敗色濃厚となったフツ族対ツチ強硬派は、積極的に自族を難民として隣国ザイールに追いやり、国際社会を巻き込み難民キャンプを作らせ、そこを将来の反抗に備えての軍事基地にしようとした、というのだ。フツ族過激派にとってもまた、それは(難民キャンプの反抗基地化)織り込み済みの結末だったというのだ。
虐殺→報復→恐怖→脱出(難民)、この全ての矢印を逆向きにしてもいい、虐殺←報復←恐怖←脱出(難民)、どちらにしても虐殺と脱出(難民)は繋がっているのだ。つまり虐殺(それも半端ではない大量殺戮だ)が起きなかったら、大量の難民脱出、難民キャンプ出現もまた起き得なかった。その難民のザイールへの脱出を生んだ虐殺は、ハビヤリマナ搭乗機の撃墜暗殺によって引き起こされた。
コンゴの地下に眠る地下資源を手に入れるために、地上における逮捕、監禁という手段でパトリス・ルムンバを屠った力は、その後を継いだモブツの後年の独裁的腐敗、反抗的態度をみてモブツに見切りをつけた。見えない力は、もっとよりコンゴの地下資源を確実に確保するためのアイデアを探していた。それは言葉を変えれば、鉱山(ヤマ)権益の再編シナリオだ。もう一度大規模に、過激に東コンゴ一帯の地下資源地帯に混乱(destabilization)を起こすこと、イラクをはじめとした中東とは違い、露骨に自国の軍隊を派遣することはできない。それには、エージェントを見つけ出し、利用することだ。幸い?隣国(ルワンダ)では、何年にも渡って激しい部族間対立が起きている。この混乱をなんとか鉱山(ヤマ)権益の再編に利用できないか?ルムンバを亡き者にした力は、ルワンダの混乱、さらに”難民”の利用を思いついた。その強烈な第一弾がハビヤリマナ機撃墜暗殺だ。やがてそれ以前を上回る規模の殺戮が始まり、RPFの本格介入を招き、そして恐怖におののくフツ族の大量脱出=難民化が始まる(それはすでに分析済みだった)。
後はルワンダ問題でありながら東コンゴの問題だ、その料理の仕方は植民地支配時代この方、手馴れたものだ、ダレとダレを戦わせ、どのように介入し、利益(=ヤマの再編、権益確保)を手に入れるか。そのために、無尽蔵の東ザイール地下資源地帯に混乱と不安定化、もっと正確に言うなら、東ザイール資源地帯の再編には大量殺戮という最初のインパクト、プロット(仕掛け)が必要だったということだ。そうしたプロットのためにインパクト=ハビヤリマナ機撃墜が必要だった、ということだ。そこに地下資源を持たない隣国ルワンダの大統領が殺され、鎖に繋がれる訳がある。大統領搭乗機撃墜というインパクトで始まったこのプロットには、さらに第二、第三弾が用意されていた・・・・。